57人が本棚に入れています
本棚に追加
その目はもうどこも見ていない。
焦点があわない目であたしを見据えている。
「嘘だろ!」
純也があたしの前に立ちはだかる。
皐月ちゃんはさっきまでの震えも消え去り、俊敏な動きを見せた。
サッと立ち上がると、純也めがけて大きな一歩を踏み出す。
その寸前、純也は近くの椅子を握り締めていた。
それを皐月ちゃんめがけて投げつける。
顔面に椅子が当たった皐月ちゃんは「ギャッ!」と短く悲鳴を上げて倒れこんだ。
その隙に純也はあたしの手を掴んでドアへと駆け出した。
すぐに体勢を立て直して立ち上がる皐月ちゃん。
純也は鍵をあけるのに手間取っている。
「純也、早く!」
皐月ちゃんがこちらへ視線を向ける。
さっきの衝撃で鼻血が出ているが本人は全く気がついていないようだ。
「開いた!」
ようやくドアが開き、寸前のところで廊下へ飛び出した。
さっきまで普通だったのに、あんんあに急に変化するなんて……。
あたしは走りながら皐月ちゃんの灰色の目を思い出した。
あたしもいつかあんな風になるのかな。
最初のコメントを投稿しよう!