武器

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こんな状況だし、名乗りたくないのならそれでもいいと思った。 なにも、誰も信用できなくなっても当然のことだった。 女子生徒は真っ青な顔をしてあたしが手渡した脱脂綿を耳に押し当てている。 「自分が殺人鬼になったときのこと、なにか覚えてないのか?」 純也がそう聞くと女子生徒は一瞬顔をしかめ、それから目を見開いた。 「殺人鬼って、え、まさかあたしが!?」 驚いて自分のことを指差している。 「純也、混乱しちゃうからやめたほうがいいよ」 そう言ったが、遅かった。 女子生徒は目を見開いたままポカンと口を開け、そして徐々に表情をゆがめて行った。 「そうだ、あたし……なんだか気分が悪くなったと思ってたら、急に体の自由がきかなくなって……」 そこで言葉を切って自分の頭を抱え込んでしまった。 血のついた脱脂綿が床に落ちる。 「無理に思い出さなくて大丈夫だよ?」 あたしは女子生徒の背中をさすった。 記憶は消えているのかと思ったが、どんどん思い出していっているみたいだ。 「あたし、嫌だったのに! すごく嫌だったのに! 勝手に体が動いて、それで……!」
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