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その言葉に私はキュッと口を引き結んだ。
顔色が悪いと思っていたけれど、本当に病気だったみたいだ。
何も言わず、次の言葉を待つ。
「俺、20歳まで持たないんだって」
「え……?」
一瞬文隆の言葉を聞き逃してしまって、私は首をかしげた。
強い風が2人の間を吹き抜けていく。
私たちの間に見えない大きな壁が立ちはだかったように感じられて、焦燥感が沸いてくる。
「ごめん、今、なんて?」
「俺は、大人になる前に死ぬ」
今度はしっかりと聞こえてきた。
ただ、私自身がその言葉を信じたくなかった。
いきなり目の前が真っ白になった気分だった。
「死ぬ……?」
「あぁ」
文隆はうなづき、そしてまた、2人の間に切なげに音を鳴らしながら風が吹いたのだった。
文隆が学校内で無差別殺人事件を起こしたのは、その6日後のことだった。
☆☆☆
俺は桃田さんの話を聞いて大きく息を吐き出した。
注文したアイスコーヒーの氷はとっくに解けて、グラスの中で層ができている。
それをボンヤリと見つめて「そうだったんですか」と、呟くのが精一杯だった。
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