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その言葉に俺は桃田さんの顔を思い出していた。
「それってもしかして、隣の桃田さんですか?」
聞くと森安さんは驚いたように目を丸くした。
「よく知っているわね」
「実は昨日もあの家を訪れて、その時桃田さんに少しだけ話を聞けたんです」
怒られるかと思ったが、目の前にいる森安さんは穏やかな表情で「そうだったのね」と、うなづいた。
「そうよ。兄は桃田さんと仲良くなった。家にいるときも、家族の目を盗んでこっそりと連れ出してくれることがあった」
それを聞いて少し安心した。
文隆はずっと人としてひどい扱いを受けていたのかと思ったが、ちゃんと友人らしい友人がいたということになる。
「桃田さんは兄をよく映画に連れて行ってくれた。昔は隣町に大きな映画館があったのよ。沢山人が出入りしててね……」
懐かしむように言葉をつむぐ森安さんがハッと気がついたように言葉を切り、「話がそれちゃったわね、ごめんなさい」と、照れ笑いを浮かべた。
「いえ、大丈夫です」
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