妹さん

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「兄は外へ出るときには深く帽子をかぶって耳を隠すように言われていたの。だけど、映画館ならまわりが暗いから、その帽子をぬぐことができるでしょう? そういうこともあって、こっそり抜け出して桃田さんと映画を見るのをとても楽しみにしていたのよ」 「そうなんですね。ご両親は文隆さんを連れて映画には行かなかったんですか?」 聞くと、森安さんは左右に首を振った。 「言ったでしょう? 沢山の人がいたって。そんな場所に兄を連れて行くことなんて、するはずないわ」 「そうですか……」 ということは、文隆が外とつながりあえる唯一の存在が桃田さんだったということになる。 映画の件もそうだけど、学校へ行くようになったのもそこに桃田さんがいたからみたいだ。 文隆にとって、桃田さんがかけがえのない存在だったということがわかった。 「桃田さんが兄を連れ出すようになった頃、両親は兄の扱いに困るようになっていたわ」 「それはどうしてですか?」 「16歳といえば当時で言えばほとんど大人よ。これから先兄をどうして行くかで、よくもめていたの」 「卒業後外へ出て働くとか、そういうことは?」
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