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「死んでくれる?」
低く、憎しみをたたえた声を聞いた瞬間、我に返った。
桃田さんが俺に向けてナイフを振り上げている。
「死ね!」
叫び声に反応して地面に転がってどうにかよけた。
「死ね死ね死ね!」
桃田さんは尚もナイフを振り上げる。
70代の動きとは思えない素早さに背中に汗が流れていく。
どれだけ転がって逃げてもこちらのほうが部が悪い。
ついに動きが間に合わなくて顔すれすれの地面にナイフが突き刺さった。
ヒッ!
と喉の奥で悲鳴が上がる。
地面に深く突き刺さったナイフを引き抜くため桃田さんが苦戦する。
その隙に立ち上がり、間合いを取った。
桃田さんはナイフを引き抜き、俺に向き合うようにして立った。
その顔は獲物を見つめたハンターのようだ。
「も、桃田さんどうして!?」
やっとの思いで声を上げる。
すると桃田さんは刃先についた土を指先で落としながら「私はいつでも文隆の味方だからよ」と、答えた。
「それって……」
ゾッと背中が寒くなる。
まさか、と、嫌な予感が胸をよぎる。
そして、それはあたっていた。
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