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ロフト・ワールド
「彩子、どがんとっからこがんば持って来たと?」
「お父さんの書斎。『ロフト』から」
彩子の父は、DIYが趣味だ。
書斎の天井板を一枚開閉できるように勝手に改造し、色々と収納できる屋根裏空間を作った。それを「ロフト」とかっこよく言っている。
彩子たちが小さな頃より、父が「ロフト」だと言い張っていたから、それが通常の「ロフト」とは違うと知っていたが、敢えて訂正はしなかった。結局、今も彩子達は、父の戯言になんとなく付き合っている。
「なし、そがんとこば行ったとか?」
「さっきお父さんが、なんかコソコソと隠しよらすとば見とってん。なんば隠したやろかっち気になったたい」
正田家は祖父母含めて六人家族。いわゆる二世帯住宅だ。
1階は祖父母の部屋の他に、仏間、客間、風呂、居間など共有の部屋があり、2階に彩子達の子供部屋や父の書斎があった。
父は、彩子が2階でこっそり見ていたのに気付かなかったらしい。
「お父さんおらんごとなって、ロフトをこっそり見に行ったら、極上五三焼きカステラの木箱があるっと」
「……食ったのか?」
突然舞い降りた好物の存在に、兄の眼が輝く。
「うんにゃ。うちも期待して開けたったいね。でも、中にはカステラばなかんと、代わりにこが入いとったたい」
「空き箱ば利用しとったわけか」
「そがんごたある」
彩子は頷いた。
「ご丁寧に、箱の上ば【封印】とか【秘密】とか書いとらすメモ紙ば貼り付けとっしゃん。そりゃあ、中を見るやろ?」
「……相変わらず、いい性格ばしとったい」
それはダチョウ倶楽部じゃなくとも、『開けろ』という意味に取られても仕方ない。
「開けたら、こがんばいっぱい入っとったたい。なんか分からんかったけん、とりま、一番上のんを持ち出してみたとよ」
「お前……、面白がっとんな」
「兄ちゃんだって、お父さんの秘密暴けるの楽しかろうもん」
正田兄妹は、二人して顔を見合わせ、悪い顔で笑った。
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