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実家からの物体X
「兄ちゃん。これ、何ね?」
20XX年、夏。
正田彩子は、兄・通信と共に1年ぶりに長崎の実家に帰省した。
そこで見つけた手のひらサイズの平ぺったい四角いプラスチックの物体X。
彩子は、それを見たことがなかった。
居間では、エアコンつけてゴロゴロしながらTVを見て兄が夏休みを満喫している。きっとこの謎の物体も、兄に聞けば分かると思った。
「それはカセットテープったい」
4歳違いの兄は物知りだ。
彩子の目論見は当たった。
「かせっとてえぷ?」
「彩子は知らんがかね?」
「うん。知らんと」
「まあ、そうだろうな。おいも、久しぶりに本物ば見たったいね」
兄は起き上がって、しげしげと彩子の手の中のものを見つめた。
「どがんして使うと? こん中身ば取り出しにくかよ」
彩子は薄っぺらくて四角い物体の上の方、わずかに中が見えるスペースに指先をねじ込んでテープを摘まみ出そうとした。
「触ったらつまらーん!」
にわかに兄が気色ばんで叫んだ。
普段「温厚」を絵に描いたような人物の豹変っぷりに、彩子はびくっと摘まもうとした手を引っ込めた。
「マスキングテープやなかよ!」
「え? 違うと? 昭和んマスキングテープば使いにくか上にやーらしゅうなかと思うとった」
「彩子が触ろうとしとったそんテープ部分に音楽が録音されとうったい。そがんば痛んだら、せっかく録った音楽ば聴かれんくなるところやったと」
道理で。
兄が慌てて叫んだわけだ。
だが疑問は続くよ、どこまでも。
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