002. I WORRY ABOUT YOU.

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◻︎ 「辞書、さんきゅー」 「……どしたの」 一芭と別れて、自習室に向かう前の新渡戸に約束通り英和を返しに行くと、不思議そうな顔と共に尋ねられる。 「なにが?」 「…なんか、嬉しそうだから」 「んー、まあ、ちょっと良い仕事したかなあという気持ちなわけよ」 「なにそれ」 変なの、とくすくす笑う新渡戸はやはり可愛いらしい。"クールビューティー"とか、分かってねーなーと思う。まあ、俺だってあの男よりは分かってないんだろうけど。 「新渡戸、今日も遅くまで自習すんの?」 「え?…まあ、うん。その予定だけど」 「今日は遅過ぎず、早過ぎずな時間で帰れ?出来れば18時くらい」 「え、なにそれ」 きょとんとした表情で当然の疑問をまたぶつけられても、それはちょっと正しくはお答え出来ない。体育館を使用できるのは、確かそのくらいの時間までだった筈。今はまだ部活中のあの男とちゃんと上手く何処かで鉢合わせろよ、と念を込める。 「…あと、似顔絵」 「え?」 「そんな、こっそりコレクションしてないでこれからもいっぱい、描いてもらえよ」 「……み、見たの」 手に抱える英和辞書の中身を知られたことに、かあっと一気に顔を赤くする女があまりに健気に思えて、思わず頬が緩んでしまった。 「あいつ今一人暮らしの準備も忙しいから。くだらないことお願いする前にまず受験頑張らないと」 「頑張れ」 「いや、尾山も頑張るんだよ」 「はーあ、くそ憂鬱」 率直に告げた俺に、「分かる」と同調して破顔してくれる新渡戸に眉を下げてこちらも笑う。 進路なんか、考えるだけで気が滅入る。出来ればずーっとこの場所で、馬鹿なことして笑って過ごしていたい。
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