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「もっと素直に周りに甘えれば?若いうちの特権だろ」
「…そういう括られ方、好きじゃない」
「あー、"若者は"ってやつ?悪いな。年取るとどうしても出来ないこと増えるから、お前らに勝手に託したくなるんだよ」
告げ終えたやけに彫りの深さがわかるラインの綺麗な横顔は、いつもよりも優しさを帯びていた。俺が記憶を辿るのと同じように、目の前の男も何かを思い出しているらしい。楽しそうに笑って告げる管理人は、手に持つ炭酸水のキャップを閉めながら「さて」と切り出す。
「俺忙しいから管理人室戻るわ」
「ほんとかよ」
「不器用な住人だらけで、困るんだよ」
「……カン、」
からからと混じり気の無い笑い声で、そのまま管理人室へと向かう男の背中を見ていると、無意識のうちに名前を呼んでいた。
「久々にお前に、その変な呼び方されたな」
「……もっと、素直になって良いんだろ」
「…うん?」
「“あの時“。景衣がカンを真っ先に頼ったのは、あんまり面白くなかった」
この男が来てくれて、正直助かったのは事実だけど。
景衣が絶大な信頼を寄せているみたいで、俺1人じゃ結局あの事態を何も収束できなかったし、若干複雑だった。
言い逃げのようにそれだけ告げ終えて、漸くエントランスを抜ける俺の後ろでは案の定、男の快活な笑い声が静かな空間を壊すように響いていた。
「お前の素直になる方向性って、そういう方面なんだ?」
「うざ」
やっぱ、言うんじゃなかった。
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