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このマンションの全てが私とあいつにとっては沢山の夢が詰まった遊び場だった。
それこそエレベーターなんて2人だけのタイムマシーンのような気がしたし、隣接している駐車場は私たちのために特別に用意された、かくれんぼのステージだと本気で思っていた。(一度、あいつが管理人の車に傷をつけて怒鳴られたことがある。)
3階に住んでる私は、4階に住むあいつとはいつも階段の踊り場が待ち合わせ場所だった。
『けい、おせーよ』
タンタンタンと、軽快な音を奏でて1階分の階段を駆け上がれば、その場に蹲み込んで目を細めて笑う男が私をいつも待っていた。
年を重ねるほどに、世界は広がる。
いろんな人との出会いがある。
――でも。
私とあいつは、
“帰ってくる場所“が、ずっと、一緒だったから。
そりゃ思春期という厄介なシーズンの到来の所為で、特に中学生の頃は顔を合わせても、うまく話ができないことも山程あった。むしろ、"同じマンションの幼馴染"なんて周りがどう思うのかばかり気になって、会うのを避けていた時もあった気がする。
高校はどこを受けるのか。
気になるくせに、それさえうまく聞けなくて。
『おい。お前も○高受けるんかよ、言えや』
『……なんで知ってんの』
『お前のクラスの奴が聞いても無いのに言ってた。あと俺も○高受けるから』
『……え。あんただけ落ちたら、マンションでめちゃくちゃ気まずいじゃん』
『しばいたろか。落ちねえよ馬鹿』
そういえば、久々にあいつが不機嫌そうにマフラーに顔の半分を埋めて話しかけてきたのも、私がエレベーターを待ってる時だった。
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