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その謎の報告がきっかけで、高校へ入った後は、それなりに出会えば喋るし、くだらないメッセージでのやりとりもするし。わざわざ「あれ、幼馴染です」と誰かに公表はしなくても、一応辛うじて繋がっている腐れ縁のようなものがあると思っていた。
――でも。
『花江先輩、□大の推薦決まったんだって!』
そんな噂を耳にして、立地的にどう考えてもこのマンションからは通えないと分かった瞬間の、心が素手で遠慮なく掴まれたような感覚。あいつは、春になったら此処を出ていくのかと、そこで初めて知ってちゃんと胸を痛める自分はとても滑稽だった。
いつかは離れるのだと、勿論分かっていた筈なのに。
慢性的にずっとひりつく痛みが消えない心は、自分の覚悟の甘さを嫌と言うほどに伝えていた。
『お前さ、俺になんか言うこと無い?』
急に何?
そんなの、不意打ちで聞いてこないでよ。
「……あるわ、馬鹿」
へなへなの声が、小さな箱の中でやはり私1人だけに聞こえて消えていく。ぐい、と手で雑に目を擦るのに視界の滲みは全然拭えない。
あるけど、そんな簡単に言葉にできたら苦労しないんだよ。だって私達、もう子どもじゃない。
いつもいつも、マンションの外階段を1階分。
駆け上った先の踊り場が私とこの男の集合場所だった。
でもそれも、もうすぐ終わる。
――離れる時が、迫っている。
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