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奴とのトーク画面は、未だ膠着状態のまま、全く私の今の感情に似つかわしくない変なスタンプで止まっている。何を送ろうかと逡巡していると、再びぽこっと通知音が響いた。
《おい》
《なに》
《返事途切れるから死んだかと思ったわ》
うっさいな。視界もぼやけるし、いつものフリック入力が、指がもつれて、心ももつれて、上手く出来ないんだよ。悪態を吐くのと同時に、いよいよ頬を濡らしていくものが何なのか、嫌でも分かる。
もはや、号泣に近い量が流れ始めている。
「…っ、」
ずび、と鼻を啜る音だって私にしか聞こえないんだからと言い訳をして、盛大に鳴らせながら、なんとかメッセージを打ち込む。
《生きてるし》
《景衣。本当に、俺に言いたいこと無い?》
可愛げのない言葉を送った瞬間だった。そっぽを向く私の心をノックしてくるようなそんな言葉が続けられてまた、涙が意図せずぽろぽろと瞳からひっきりなしに流れ出る。
届いた問いかけが、やけに優しく心に浸透するのは何でだろう。
――ねえ、そっちは今、どんな顔してる?
《あるわ》
《あるんかよ、なんなんだお前は》
《でも、なんかもうそろそろ業者の人来そう。多分あと5分くらい》
スマホの画面上に表示された時刻を確認すると、あっという間に、ここに閉じ込められてから20分以上が経過していた。
ぐい、と涙を拭いていると再びメッセージを知らせる音が鳴る。
《わかった。じゃあ、残りの5分は本音だけな》
男からの提案に、濡れた瞳を数回瞬いた。
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