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「…おせーわ」
勢いよく外階段を駆け上って、漸く3階と4階の踊り場まで辿り着いた時。昔のようにしゃがみ込む男が、私を確認して、小さく呟く。その拍子に張り詰めた冷たさを孕む外気に晒されて白い息が男の周りを舞った。
はあはあと、肩で息をしながらそれを見つめるとやっぱり男は綺麗な二重の瞳を細める。スマホを右手に持ったまま、もう一方の手を首の後ろに当ててこちらを睨むその顔も、耳までも、めちゃくちゃに赤い。
その様子を目撃してしまえば、頬の赤みがどうしたって伝染する。
――その赤さは、流石に寒いからってだけじゃないでしょ?
昔みたいに、笑って階段の1段飛ばしなんて、
もう簡単には、出来そうにもない。
だって私達、もう子どもじゃない。
でも、たまには。
「……一芭、あのね、」
今から口にする言葉のせいで、きっと私もこの男以上にもっともっと、真っ赤な顔に自信はあるけど。
不格好でも良いから。
――体裁なんて気にせず、駆け上ってみようか。
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