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『あいつに会うと、余計なこと言いそうになる。受験の邪魔したくないし、これで良い』
『あいつ今一人暮らしの準備忙しいから。くだらないことお願いする前にまず受験頑張らないと』
将来なんか見通せないし、よーわからんし、憂鬱だけど。同じように不安を抱えた奴らが、なんか拗れながら結局支えあってるの見てたら、まあとりあえず、頑張るしかねーのかなあという気持ちにもなる。
「なんか一芭、俺が浪人になったら寂しいらしくて心配してくるからさあ。そろそろ本腰入れるわ」
「……そうなんだ?」
ふふ、とまた空気を揺らした新渡戸に「お前のことも相当心配してるよ」とついでのように本筋を伝えると、目を丸くして、どこか泣きそうな表情に変わる。
「………私の方が、ずっと、心配してるし」
誤魔化すように瞬きをして、視線を逸らしながら薄い唇が紡いだ小さな言葉を聞き漏らさなかった。
「本人に言いなさいよ」
「…難しい」
「もーー、なんでこう、俺の幼馴染達は厄介なんかね」
「…大将の方が、何百倍も昔は厄介だったのになあ」
「さらっと、なんてこと言うんだ」
弱った声で失礼な発言をする新渡戸に指摘をすると、目尻を拭いながらごめんと笑って謝罪された。
「そうだ。お詫びにこれあげる」
「なに?」
「一芭がやたら上手く描いてくるから、私も真似して古文の秋山先生描いてみたんだけど」
手に抱えていた古文の文法書に貼り付けていたらしい付箋を受け取って、顔が固まった。
「いや、下手すぎだろ」
「うるさいなあ。一芭にも絶対馬鹿にされると思ったから渡さなかったんだよ」
むっとした表情を浮かべる新渡戸を前に、あまりの画伯っぷりにケラケラと大きく笑ってしまった。人間というか、もはや怪物か?と疑うクオリティだ。俺が秋山なら絶対にキレてる。
「……元気出るわ、これちゃんと文法書に貼って勉強します」
「そうしてください?」
もはやヤケになって返事をしてくる新渡戸に笑いながら、多分俺はこの付箋をそれこそ後生大事にすんだろうなと苦々しい予感を胸に抱く。
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