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決戦目前ガール
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私ほど、間の悪い女は居るのだろうか。
「……さい、あく…」
身体は火照りを嫌というほど知らせてくるし、頭は割れるように痛い。その場で目を瞑ると、真っ黒の視界の中でうねった渦がぐるぐると回っていて、より一層気分の悪さが増した。ずり落ちたスクールバックをなんとか左肩にかけ直して、ふらつく足に力を入れてエレベーターのボタンを押す。
「…また、最上階から降りてくるし」
3階までエレベーターが迎えに来てくれるまで、まだそれなりに時間がかかりそうだ。点滅して降下を知らせるそれを確認しながら、壁についた手を離すことは、出来ない。ただ立っているのさえ力を使う状態なのだ。
冬の早朝は、貫くような冷たい空気を衣服の上からでも感じる。それなのに自分の身体は熱さを内側に閉じ込めていて、そのちぐはぐさに、変な汗が出てきた。
「……しんど、」
呟いた言葉は今にも泣きそうなくらい弱々しく、白い霧になって直ぐに消える。
本当に、最悪だ。
ガサゴソと、ゆっくりした動作でバッグの内ポケットを探って取り出したのは自分の名前、番号、高校名、私を示す全てが書き記された"受験票"。
――日付は、まさに、今日。
そうなのだ。
今日というこの日は、私にとっては、人生を左右する1日でしかない。
そのままスマホを取り出せば、あいつとのトークが表示の1番上に来て、通知を知らせていた。
《家にいろよ》
「……は?」
その短文だけが、ついさっき投げ込まれていたらしく、私の疑問が自然と音になる。
家に、居られるわけがない。
私は今から、まさに大学の入学試験という名の大切な決戦へ向かわなければならない。
……この、あまりにも最悪のコンディションで。
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