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オールナイトニッポンボーイ
ゆっくりそのまま指を画面に這わせて、あの男と昨日の夜に交わしたトークを遡ってみる。
《今何してんの?》
《分かりきった質問すんな。勉強してるに決まってるでしょ》
《え、なんで?》
《は?》
《前日に叩き込んだことって、大体あんまり意味ないよな》
《殴られたいの?》
そこで、いつものブッサイクなクマがファイティングポーズをしているふざけたスタンプが挿入されていて、絶妙な苛つきを誘われる。
《今すぐ寝ろ、明日眠くなったりしたらまじで笑えないだろ》
こいつの言うことは、正論だとわかってる。睡眠は、当然しっかり取らなきゃいけない。勝負の日の前日なら、尚更そうだ。
だけど、不安なんかずっと前から押し潰されそうなほどに持ち続けてきている。明日、全部ぜんぶ決まってしまうのだと自覚すると、怖くてたまらない。
でも今更そんなみっともない不安は言えなくて、机に向き合ったままメッセージを返さずにいると、突然、スマホが震えた。
「……もしもし…?」
"しょうがないから、俺が今からオールナイトニッポンやるわ"
「……はい?」
脈略のなさ過ぎる、男からの電話に怪訝な声が漏れた。何を言ってるんだろう、この男は。
「…なんの話?」
"だからお前は、とりあえずまずベッド入れ。"
「……、」
促されてる言葉そのものは全然、優しくない筈なのに。一芭の声はいつも耳にすんなりと届いて、心がスルスルと解けていく感覚に包まれる理由はちょっと悔しいから蓋をする。
「わかった、けど。オールナイトニッポンって何」
"え、知らねえの?ラジオ番組"
いや、知ってるわ。心でそう突っ込みを入れながら徐に立ち上がる。
「それをあんたがやるって何?」
"だから俺が今から喋り続けんだよ"
「……は?」
"お前、いつからそんな理解遅くなったの。前からか。
俺がベラベラくだらないことをただ勝手に話すんだよ"
「…ラジオってそんな感じだっけ。」
"そうだよ、聞かなくて良いレベルの取り留めもない話をぐだぐだされて、それを寝ながら聴くのがラジオの醍醐味だろ"
普通に、ラジオの放送局の皆さんに怒られそうなことを言っている。
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