毎日がハプニングガール

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 毎日がハプニングガール

そうして迎えた今日という決戦の日。 私はもう、あの男に合わせる顔が無い。折角あんな風に、よく分かんないラジオで夜遅くまで付き合ってくれたのに。 スマホで一芭とのトーク画面を見つめていると、熱に浮かされているのも相まって、視界のぼやけが酷く、文字がみるみる滲んでいく。 そのタイミングで、チンとエレベーターが軽快な音で3階に到着したことを知らせた。徐に開かれる箱の中へ、重い足を一歩踏み出そうとした時。 「―――おい、"毎日がハプニング"女」 「っ、」 箱の中から聞こえてきた声に、身体が止まる。視線をあげると、今日はマフラー代わりに上までチャックをあげた黒のダウンに口元を埋めて、些か不機嫌な眼差しを向ける男が立っていた。 「…なんで、?」 1つ深く溜息を吐いた一芭は、エレベーターに半端に足を突っ込んでいた私の腕を引いて再びマンションの廊下へと引きずり出す。 4階に住む男が、エレベーターを使ってこの3階まで降りてきた。そこだけは、ぼうっとする頭でもなんとか理解ができた。 「既読無視すんな。家にいろって言ったじゃん」 「……、一階くらいでエレベーター使うのやめなよ」 「なんかお前が乗り込みそうだと思って妨害した」 「……」 痺れを切らしたかのように、誰を乗せることもなくエレベーターは再び閉まって。隣でそう指摘する男に何も言えず、ただ瞬きと共に視線を合わせると、困った顔で笑われてしまった。 「熱いな、これ何℃あんの」 「…分かんない、測って、ない」 前髪を軽く避けておでこに当てられた手は、ぶっきらぼうなくせに、どこまでも優しい。優しくて、温かくて、気を張らないといけない"今"が簡単に緩みそうになる。 「俺が迎えに行く予定だったんだから、勝手にフラフラ家から出るなよ」 「…なんで、ここにいるの」 ――緩むから、直接会いたくなかったのに。 「……恵美さんから連絡きた」 父は生憎、先週から出張に出かけている。母も、もう仕事に向かってしまった。 今朝、私が熱を出していることを知って慌てた様子でとりあえず仕事を休もうとしていたから「風邪薬も飲んだし、私も受験会場にちゃんと行くから」と、踏ん張って気丈に答えた。気が動転してる母が、タクシーを呼ぼうとしていたから、それも公共の交通機関で動いた方が安全だと断った。 まさか、その全てをもう既にこの男に伝えているとは思わなかった。本当、あの母親は、花江家への情報伝達が速すぎる。 「……景衣」 そんな風に呼ばれると、涙腺が壊れそうになるくらいには、身体が参ってしまっていた。不器用な手が、私の頭にぽんと置かれた瞬間、もう我慢なんか、当たり前に効かなくなっていた。
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