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「……ひとは。どうしよう、」
ぽろっと溢れた言葉につられて、涙もとうとう流れ出た。
だって”今日"のために、ずっとやってきた。
夏の暑い日も、冬の寒い日も、いつも。
なんにも勉強がはかどらなかった日やテレビの誘惑に負けた日は自己嫌悪になって。反対に、過去問を解いて模範解答とニアリーだったら心の中で自分に大きな拍手を送って。
模試の判定なんて、まだまだ覆せるって言い聞かせながらも、やっぱり合格ラインを突き付けてくるアルファベットには、一喜一憂して。
そういう自分を、今日はありったけ全てぶつけないといけないのに。
「怖い。今までやってきたこと、今日の試験で、なんにも出てこなかったらどうしよう。今も、こうしてる間にも、折角覚えた英単語とか、古典の文法とか。
どんどん抜け落ちてる気がして、怖い、」
曝け出したら、もう止まらない。ポロポロ涙が出るのを自分の制服で拭おうとしたら腕を掴まれて、ぐいと一芭が指の腹で代わりに拭き取ってきた。
「お前はトリ頭なの?歩いたら忘れんのか」
「………もう良い。話す奴、間違えた」
むかつく回答を受けて鋭く睨みあげているのに、反対に男の綺麗な瞳が細まって、意外にも凄く柔らかい眼差しを向けられていた。
「人間、そんなすぐ忘れるかよ」
「……」
沈黙の中で、もう一度涙を拭ってくる一芭に「景衣」と再び名前を呼ばれると、私はどんな時よりも従順になってしまう。
「今からの試験を支えるのは結局、今までのお前の頑張りだけだよ」
「……わかってる」
でもそれを発揮するには、最悪のコンディションを完成させてしまった。
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