毎日がハプニングガール

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不安が充満している私の前で、一芭は再び息を軽く吐いた。 「お前は本当、ハプニングに見舞われる女だな」 「……うっさいな」 「エレベーターに閉じ込められたと思ったら、今日は受験当日に熱出してるし。もはや尊敬してきたわ、次は何すんの?」 ムカつく。より鋭さを増した視線で睨み見上げれば、整った顔を楽しそうに破顔させた男が居る。それなのに「景衣」と優しく名前を紡がれてしまうと、やっぱり、私は途端に弱い。 「…俺が今日、お前にしてやれることも言ってやれることも、殆ど無い」 分かっている。 だって、これは私が戦わなきゃいけないことだ。 それに、どんなに憎まれ口を叩いても、揶揄ってきても、この男が心配して様子を見に来てくれたことだって、熱の出た頭でもちゃんと分かっている。 だからこそ「そろそろ行く」と告げて離れようとすると、一芭は私を掴んでいた腕に力を込めてきた。 「……でも一個、約束しようか」 「…え?」 寝静まったように静かな早朝の、マンションの廊下。 寒さに晒された空間で、男は相変わらず口元を隠しがちだから、表情の全てはあまり確認出来ない。 『…おせーわ』 だけど。いつかの踊り場の時と同じように、顔や元々色素の薄い焦茶色の髪から覗く耳が、赤い気がする。
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