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「これから何年経った後も、今日の結果がどうであっても。"あの時、お前大変だったな"って一緒に笑ってやる」
一芭の声が真っ直ぐ真っ直ぐ、迷うことなく心に届いては、染み込んでいく。
「……一緒に、?」
聞き返す声は、それに伴って凄く震えてしまった。目を見開いてただ目の前の男を凝視すると、気まずそうに視線を逸らされる。
「…昨日、電話でも言ったけどお前もう寝てただろ」
「…もっと早く、言ってよ」
「ラジオ設定引っ張り過ぎて言い出せなくなったんだよ」
「ばかじゃん」
「お前、視聴料取んぞ」
昨日、殆ど微睡の中で男が囁いていた言葉がこれだったなんて、そんなの思いもしていない。
「今日の試験は大丈夫だとか、簡単に言えない。
無責任に絶対、とかは言わない。…でも、その後。
お前が今日を乗り越えた後のことは、言える」
まるで確定された未来のように、この男は、これからも私の傍にいることを軽く予言してくる。
「……試験0点でも、笑ってくれるの?」
「おー、逆に凄いわ。ひとしきり笑ってから、一緒にその後考えてやる。それって結構、無敵だろ」
"無敵"って、なによ。
子供みたいな表現に思わず吹き出して笑うけど、そのまま涙が再び瞳の縁から溢れて、不思議な顔になっていると思う。
そっか。
私は今日、どうなるかは分からないけど。
頑張って走り終わったら、この男がその先で、笑って待ってくれているらしい。
――それは、たしかに"無敵"かもしれない。
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