緊急事態のボーイ&ガール

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 緊急事態のボーイ&ガール

頑張った今日が、いつか時間を経て記憶になって、自分の思い出になっていく時、傍で笑ってやるなんて。 すごく長期的な約束を心で反芻しながら、私は同時に思い出すことがあった。 《俺はお前に「花」をやるって、昔、約束したと思うけど》  「一芭の約束は、いつも大事(おおごと)になる」 「うん、でも破らないから俺」 軽い口調だけど、何でだろう。嘘は無いって思えてしまう。そういう言葉に、表情は自然と緩む。 前にエレベーターに閉じ込められた時、私は階段を不恰好に駆け上がって、踊り場で待っていた男に、それはもう勇気を振りまくって絞りまくって、伝えた言葉がある。 『一芭の"花"、私に、くれる?』 あの時、息を切らしながらも、意を決して約束への返事を伝えたら、男は形の良い瞳を細めて笑ってくれた。 今さっきくれた約束には、どんな風に返したら良いんだろう。 「お前、薬は?」 「一応さっき、風邪薬飲んだ」 「じゃあそれ、試験の時に丁度効いてくるな」 「……効くのかな」 「効く」 躊躇いなく即答されて、思わず自分より随分背の高い隣の男を見上げる。「日本の製薬会社は強いから信じろ」と謎の励ましと共に整った顔を解した一芭は、再びエレベーターのボタンを押す。 「…そっか」 この男が会いに来てから、既に頭痛は少し和らいだ気がしていて、私の身体なんて、本当にとても単純なものだと実感する。 でも、私の持っていたバッグをひょいと奪って「じゃあ行くか」と軽く促す男の意図は見えない。
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