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「……どこに?」
「は?受験会場」
「……なんで一芭が行くの?」
「お前が途中で息絶えたりしたら、俺は恵美さんに合わせる顔ないだろーが」
息絶える、なんて随分と不穏な言い方してくれる。
でも、「姉貴に車出してもらうのも考えたけど、こういう時は公共の交通機関使ってた方が良いだろ」と、私も今朝考えていたことをあっさり見破ってくる男にまた、涙が出そうになる。
嗚呼、戦場まで一緒に居てくれるんだと安堵したら何故かすぐ傍の手を握り締めたくなって必死に耐えた。
とりあえず駅に向かうからと、エレベーターのランプを見つめながら伝えてくる男に、私は1つだけ懸念を思い出す。
「……ぶ、部活は?サボったりしたら駄目でしょ、」
「今日は良い。そもそも引退してるし、自主練だし」
「……もう進路決まってるの、つよ」
「ほんとにな。お前は優秀な彼氏に感謝した方が良い」
"彼氏"
またしてもサラッと告げられた言葉に擽ったくなってしまうのは私だけなのかな。そう思いながらこっそりと背の高い男を見上げたら、表情は分かりにくいけど、整った横顔も耳も、すごく赤いことに気付く。タコみたい。
「……ふ、」
「なに。余裕出てきたじゃん」
思わず笑いが溢れたら、その理由を知らない男も破顔している。中性的な顔をやわく解きながら向けられる眼差しが、私はとっくの昔から好きだ。
「一芭。さっきの、約束だけど」
「…ん」
照れは健在なのか、短く返事をした男とゆっくり視線が絡む。
"この先もずっと、隣で一緒に笑ってて"
私の答えなんて最初から決まってる。
でも駄目だ、いざ言葉にしようとしたら、凄く恥ずかしくなってきた。
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