1538人が本棚に入れています
本棚に追加
/174ページ
『……景衣?』
受験票で自分の顔を隠して、その場にしゃがみ込む華奢な身体を視界に収めて、直ぐに駆け寄った。
『どうした』
『、一芭が、アホなこと言うから、気が抜けた…っ』
言葉の通り、へたりと座る女が微かに笑い声を上げる。でも、優しく目尻の下がった大きな瞳には今にも溢れ落ちそうな涙が溜まっていて、そのちぐはぐさに自分の中で触れたい衝動が募る。
『……泣くか笑うかどっちだよ』
『あんたのせいでしょ』
ずび、と盛大に鼻をすする景衣の涙を袖口で拭うと、ちょっと擽ったそうに片目を瞑りつつ大人しく俺にされるがままの様子が、いつもより幼く見えた。
『…ひとは』
『なに』
『受験終わったら、"美味しいご飯"、奢るから』
『……なんで』
『…ラジオの視聴料2回分と、あと、色々お礼』
告げ終えた後の真っ赤な顔は、まだまだ厳しいこの寒さによるものなのか、発言の勇気によるものなのか。
『景衣ちゃん、素直に"デートしたい"くらい言えよ』
『……うっさいな』
出来れば後者であってほしいと、最後まで素直じゃ無い女に少しだけ笑って、尖らせた桃色の唇に自分のものを重ねた。
入試の日以来、なんとか自重してきたが今日くらい許してもらう。もっと頬を赤く染める景衣が、目を大きく開いて驚きつつも抵抗はしないのを良いことに、後頭部に手を回してさっきより強く触れる。
最初のコメントを投稿しよう!