勿論、エレベーターを使います。

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古びた箱に乗り込んだ私は、力なく「3」のボタンを押す。右側の壁には、ゴミの出し方についての注意書きと、今週土曜にエレベーターの点検があることを知らせる紙が並んで貼ってあった。 壁に体重を最大限預けてもたれかかる私は、それらの文字を目では追いながらも、先ほどの男の言葉が繰り返されてしまう。 『お前さ、俺になんか言うこと無い?』 急に、なんだって言うの? 溜息に混じって、そんな呟きを吐き出したくなる。 3階なんて、エレベーターならあっという間に到着する。身体に染み付いた感覚で、もうそろそろかと体を壁から離して階数を示すランプを見た瞬間だった。 ___ドスン 「…っ!」 鈍い音と共に、空間そのものがぐらりと揺れて想定外の浮遊感に襲われる。そのまま、下へとエレベーターがゆっくり下がっていく感覚を静かにじ、と感じていると、その動きもやがて完全に止まってしまった。 咄嗟に壁に手をついて上体を支えた私は、何が起きたのかをすぐには把握できていない。ただ、異常事態に反射的に背中を伝う冷や汗と、煩く騒ぐ心臓を感じていた。 ハッと意識を戻して、エレベーターの前方へ近づき階数ボタンを1から15まで順番にもれなく押してみるも、全く何の反応も無い。 当然目の前の扉が開く兆しも無い。 「……嘘でしょ…」 ―――どうやら私は、閉じ込められたらしい。
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