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この場所は独りより、ふたり
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いつも通り高校での練習を終えて、後輩達からの尋問を終えた後。夜は俺の家で、景衣の家族も招いて盛大に送別会のようなものが催された。
この歳で大袈裟にやめてくれと何度伝えても、母親の由紀子や恵美さんが頑なに強行した。むしろあの2人が酒を飲むために集まりたかっただけな気もする。
そこそこ夜も深くなった頃、景衣は「明日私も早いから、お母さん置いて先に戻る」と立ち上がった。
春休みに入って、チェーンのカフェでバイトを始めた女は、時給の高い朝早くシフトに入ることも多いらしい。
「……だから、明日、見送りは出来ないけど」
「要らん、これ以上仰々しくされたら疲れる」
「…たしかに」
玄関先で振り返った景衣に、溜息混じりに伝えると今日の盛大すぎるパーティーを振り返っているのか表情がほぐれる。
「寝坊しないようにね」
「お前みたいに寝つき悪くないから」
「うっさいな」
あまりにいつも通り過ぎる会話に、何処かでほっと安堵する。
お互いの受験が終わってから、そこそこ2人で出掛けたし、限られた時間はちゃんと無駄にせず上手く過ごせていたと思う。
「……じゃあね。明日、無事に着いたら連絡してよ」
「その台詞、由紀子にも恵美さんにも言われてるけど」
「煩いな、3人にちゃんと個々で連絡するんだよ」
一回に纏めさせろよ。
そう言って思わず笑うと、やっぱり景衣もちゃんと微笑む。
「おやすみ」と玄関を出て行くまで、俺らにしてはあまりに"素直な"、別れ方だった。
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