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意地っ張り女の、ネタバレ(ガセ)提供
◻︎
「…出ないか」
繰り返されるコールが、相手に重さを与えているように思えて、あまり長くならないうちに自分から切った。
ベッドの上で、スマホの発信履歴の1番上にあがった名前は、幼い頃から何度呼んできたか分からない。
もうそろそろ日付が変わってしまうこの時間帯に電話に出ないということは、既に爆睡してしまっているのだろうか。あの男は割と何処でも寝られてしまうから、疲れてそのまま床で、とかしてなければ良いけど。中高時代、何度か目撃してきた様子を思い浮かべると口角が少しだけ上がる。でも、同時に言いようのない寂しさを抱える。
面倒な自分を振り切るように、私もそろそろ寝ようとベッド傍にスマホを置こうとした時だった。
【着信 花江 一芭】
画面に表示された文字と、急かしてくる着信音に操作する手が少しもつれて、出るまでに若干時間のかかった自分が恥ずかしい。
"もしもし?風呂入ってた"
「あんた、まだ起きてたの」
"いや、練習から帰ってきて今まで床で意識飛んでた"
…やっぱり。容易に想像が出来すぎて、「馬鹿だなあ」と思わず笑うと不機嫌そうに何か言い返されたけど、あまり頭に入ってこない。
"で?"
「え?」
"なんかあったんじゃ無いの。お前が電話してくるの珍しいだろ"
「……、」
『合宿から、いつ戻ってくるの?』
『…詳しく聞いてないので分からないです』
『じゃあ今日絶対電話して、聞いて』
今日の菊さんと交わした会話は、私が拒否して終わらせたくせに、こうしてまんまと電話までしている自分に恥が募る。
別にサプライズをするつもりは無い。ただ聞いてみるだけだし、それなら変じゃ無い。
菊さんは此処に居ないのに、誰へ向けているのか分からない言い訳を内心で重ねつつ、口を開こうとした時だった。
"…お前の大学って、課題とか重い?"
「は?」
一芭が私の決意を遮るように苦い声で告げるから、肩透かしを食らって間抜けな声が出た。
"来週ほぼ合宿で潰れるから、このままいったら帰ってきた土日、多分レポート地獄になる"
「……そんないっぱい提出課題あるの?」
"授業ごとにすげえ出てる、うざ"
舌打ち混じりに伝えられた言葉に、今まさに出そうとしていた勇気が静かに萎んでいく。
一芭の通う大学は、誰がその名前を聞いても「すごい」と驚く有名なところだ。授業もそんなに厳しいのかと感心すると同時に、私が聞きたかった答えも得てしまった。
どうやら合宿は土曜には終わっているみたいだけど、この男はレポートや課題に追われるらしい。
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