意地っ張り女の、ネタバレ(ガセ)提供

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____________ _____ 「おー!景衣ちゃん、ラテアート上手くなったじゃん」 「…これに関しては、大変なご迷惑を…」 「そうね、敢えて包み隠さず伝えるとすると、すんごい下手でどうしようかと思ったもんね」 「いや、包み隠していただいて良かったんですが?」 カウンターで私の隣に立ちながら、施したアートを見つめてケラケラと笑う菊さんに結局つられて笑ってしまった。 「あ〜〜早朝シフトは眠いけど、客足も客層も穏やかで良いね。日中になると若者増えて地獄でしょ。景衣ちゃん、疲れ溜まってるんじゃない?」 「確かに、この1週間はなかなかハードでしたね」 ゴールデンウィーク中のバイトは、菊さんの言う通り、地獄かと思う瞬間が何度かあった。特にお昼後のいわゆる「ティータイム」の時間は、お客さんが常に途切れず、捌くことにだけ注力していると2時間ほど経過している、という流れが多かった。 でも、始まればあっという間なもので、私の怒涛の社畜期間も今日でラストを迎える。早朝シフトで菊さんと被って、まだ混雑具合にも余裕があるうちにラテアートの練習に付き合ってもらった。これだけはバイトを始めた時から下手すぎて彼女に思い切り笑われてきたから、今日の出来栄えは成長していると自分でも実感できる。 「…写真撮って、初期の酷いアートとの比較画像つくったげる」 「菊さん、面白がりすぎです」 「彼氏にも送ったら??」 未だに愉快に笑いながら受けた提案に、不自然に洗い物をしていた手が止まる。 《お前、どんなガセネタを流してくれてんの。嘘だと信じながら念のため検索してしまった俺の時間返せ。あと、あの管理人は禿げじゃなくてスキンヘッドな。ゲンコツくらうぞ》 私が唐突に切った電話の後、男から丁寧に文句と訂正のメッセージが来ていた。なんて返せばいいのかよく分からなくて、「ほーん」という腹の立つ言葉を背負った間抜け顔のうさぎのスタンプだけを押した。 その後、ゴールデンウィークの突入と共に合宿が始まったらしい男からは、それでもちゃんと、夜遅くにはメッセージが来る。いつも通り、監督が芸人の誰かに顔が似てるとか、食堂のご飯が思ったより美味しいとか、大体は合宿中に起こった何気ないこと。 それでも多分、それら全ては一芭なりの私に対する気遣いなのだと思ったら、いろんな感情を1人拗らせて、上手く立ち振る舞えない自分が情けなかった。
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