意地っ張り女の、ネタバレ(ガセ)提供

5/5
前へ
/174ページ
次へ
「私、昨日丁度彼氏と喧嘩したんだわ」 「え、」 菊さんは、同じ学部に彼氏が居る。友達の期間も長くて、付き合って半年くらいだった筈。お互い一人暮らしで、もはや半同棲に近いと言っていたから、常に仲良しなのだと思っていた。 「まあ、私がキレただけなんだけど」 「……」 「あいつがね、女の子と2人でご飯食べに行ってたって知ったのね。問い詰めたらバイト先の子で、"彼氏と揉めててどうしても相談乗って欲しいって頻繁に連絡来てて、最後は泣かれて"って。 はあ?態々相談相手に、彼女持ちの男を選ぶんじゃないわ、下心しか無いだろその女。そしてお前も勘違いさせるようなことをするな」 「き、菊さん落ち着いて」 捲し立てるみたいな彼女に自分が怒られている気分になってきた。宥めるように声をかけると、ふと眉を下げて少し困ったような笑みに変わった。 「異性の友達なんか、1番不安定なポジションだよ。 だって私もずっと女友達だったんだから。そして私は友達時代からいつ捕まえようか、下心しか無かった」 「清々しい…」 菊さんは、大人っぽい見た目に隠しているけど、どうやら肉食系女子らしい。そういうところも可愛いなと思っていると思わず少し笑ってしまって、それに気づいた彼女が気まずそうに目を細めた。 「……じゃあ泣いてる子を躊躇いなく放って帰るような男だったら良かったのかって考えたら、それは難しいのよ。ずっと自分だけ見てて欲しいし不安にさせないで欲しい。でもお人好しなところを好きになったのも、嘘じゃ無い。ね、自分勝手で矛盾してるでしょ?」 「……、」 「景衣ちゃん、ずっと正しい感情だけで恋を通していくのなんか、きっと無理だよ。パンクしちゃうよ」 「…このままぶつけても、良いんですか…?」 まとまらない、自分勝手な感情をありのまま全て。 返事の代わりに、菊さんがあまりに優しく微笑むから、鼻の奥にツンと痛みが走る。誤魔化すようにまた瞬きを増やす。 「どうやって、仲直りされたんですか?」 「…あー…」 『もう良いです。あんたはそうやって誰にでもお優しくしててください』 『、まて!菊、もう多分大丈夫だから!』 『はあ?』 『…相談に乗ったその子とは、10円単位できっちり割り勘で帰ってきた。我ながらすげー格好悪いと思ったけど、まあ、変な感情は一切無いことを示す意味で…?』 『……その子、どんな反応だったの』 『言葉には出さなかったけど、多分めちゃくちゃ引いてた。そして一切連絡来なくなった』 『…あんた、お人好しなのか、容赦ないのかどっちなの』 『…うん、でも俺は、八方美人かもしれないけど、格好良く見られたいのは、菊しか居ない』 急に歯切れ悪く話をしてくれた菊さんの頬が少し赤い気がした。 「友達時代からたまに何故か理由つけて奢ってくれる時あったなと思ったらなんかもう笑えたから、私も単純なの。所詮、そんなもん」 微笑んで私の頭を撫でる彼女が、「大したことないよ」と軽く伝えてくれるようで、いよいよ涙がこぼれ落ちる寸前まで溢れている。 「…景衣ちゃんと彼氏君は、幼馴染でお互いを分かりすぎてるから、いろんなことの推測もすぐ出来て、動きにくいのかもね。でも、恋人になった彼のことは、まだまだ、これから知っていく段階でしょ?」 「……はい」 「…やっぱり実行する時がきたね」 「え?」 「サプライズ。可愛く"来ちゃった"付きでお願いね。想像だけでお姉ちゃん、泣けてきたわ」 初めての合宿で疲れてて、課題も溜まっていて、そんな状態で会いに行ったら、負担になってしまうかもしれない。 だけどごめん。 ――私は、それでも、少しでも、会いたい。 「……その言葉は難しいですが、サプライズ、頑張ってみます」 私の返事に満足そうに頷いた菊さんは早朝だけのシフトの予定だったのに、お昼までの私とシフトを代わってくれてしまった。この恩は、別の機会にちゃんと報いようと決めて、急いでお店を後にした。
/174ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1539人が本棚に入れています
本棚に追加