意地っ張り女の、安眠に欠かせないもの

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「土地の魅力かと思った」 「…行ったことねーもん、知らん。超個人的な理由なので気にしないでいただいて良いですけど?」 開き直ったような声が少し不貞腐れても聞こえる。 相変わらず抱きしめる腕の力を緩めてくれないから、顔は上げられない。 「一芭、やっぱり馬鹿だなあ」 「……」 「オーストラリア検討してあげる。ニュージーランドは、一芭的にアウト?」 「うざ」 笑いを噛み締めて尋ねると、短く悪態をつかれた。でもそれにも笑ってしまう。何で急にこんな可愛さ出してくるのかな。 この男に向かう感情が、とっくに溢れかえっている。今日はすぐそばに居て一芭が与えてくれる気持ちの分、抱き締め返すことが出来るけど、明日からはそうはいかない。そのことを1人で実感したら、折角今一緒に居るのに胸が締め付けられた。 少しずつ思考を侵食する睡魔の中に寂しさが入り込んで、いつも言葉を紡ぐ時に邪魔をする羞恥を勝手に溶かしていくのが分かった。 「ひとは、」 「…なに」 ――もっと、ぎゅってしてほしい。 声が震えて、でも誤魔化しもきかない。滲む視界を遮るように目を瞑って目の前の男にしがみついてやろうとしたら、あっさりと腕が緩まった。 「…景衣、顔上げて」 「なんで」 「なんでも。早く」 私が勇気を出して伝えた恥ずかしい要望は、無視なのか。文句を心で唱えつつ渋々顔を上へ傾けた瞬間、待っていたように唇を奪われた。軽く体を起こして、覆い被さるようにして強く何度も重ねられる熱を、焦りの中で、でも手放したく無くて、必死に受け止める。 「……泣き虫」 漸く唇を離した一芭は、困ったように眉を下げて笑って、私を今までで1番強く抱き締めた。指摘されてまた涙が出てくる私は確かに、返す言葉が無い。多分これからも、この男が隣に居ない寂しさに沢山泣くのだと思う。 『遠距離も慣れだ、とか俺は絶対言わないからな。こんなもん、慣れてたまるか』 だけど、平気にならなくて良いと当然のことのように言ってくれたから。 ――弱い私も、大丈夫かもしれない。 温もりに酷く安心して、眠りの世界へとあっさり落ちていく私に「お前、寝付き悪いんじゃないんか」と一芭が文句を言いながら、髪を撫でてくれた気がした。
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