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あの男、もしかして「なんだ。じゃあ階段使うか」くらいのテンションでの既読無視なのだろうか。
万が一そうだとしたら、なんて薄情な奴だ。
「大丈夫?」くらい言えないのか。
勝手な予想を並べては馬鹿みたいに苛立ちが募る。やはり全く進まない英単語帳を一瞥して顔を歪めていると、再びぽこっと軽快な音がメッセージの到着を知らせた。
《ダメだわ》
《何が?》
《エレベーターどこで止まってんのか分からん》
短い男からのメッセージに、閉じ込められて他にやることも無いし、いや英単語を覚えろという話だけど、間を空けずに反応してしまう。
どこで止まってるかなんて。そんなの、私も今の現在地なんか自分でもよく分からない。それをそのまま打ち込んで伝えると「お前役立たねえな」となぜかストレートに非難されて、より一層意味が分からない。腹立つ。
《さっき非常ボタンで助け呼んだから大丈夫》
《それ、すぐ来んの?》
《うん。30分くらいで行きますって》
そう打ちながら時計を確認すれば、もうボタンを押してから10分ほどは既に経っていると知る。まあ、あと20分なら我慢もできる。
《何してんの》
《は?》
《何して過ごしてんの?》
《英単語覚えてる》
《1人で?》
《当たり前でしょうが》
《なんか不憫》
《ぶん殴るよ》
誰が不憫だと、文字を見て1人で突っ込んでしまった
。私の最後の言葉に呼応するかのようなファイティングポーズをしたクマのぶっさいくなスタンプを送りつけてくる男は、一体何がしたいのだろう。
こいつ、暇なのだろうか。
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