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「……そのつもりだけど」
「ふーん」
「なんだよ」
「あんな企業の本社クソほどある大都会に住んでて、態々、“Uターン“ねえ」
「………何が言いたいわけ」
「別に。ただ、お前は昔から、自分に近い人であればあるほど付き合い方が下手クソだなと思っただけだよ」
「…は?」
「お前、こっちに帰ってこようと思ってること景衣に言ったの?」
「…言ってない。まだ部活も引退してないし、就活のこと何もできてない中途半端な状況で期待させるようなことは言えない。後、あいつも今インターンとかで忙しいから」
「……景衣も、真面目だからなあ」
それは、間違いない。馬鹿がつくほど真面目で、融通がきかない。何かを成し遂げるために、多少の姑息さを兼ねた最短距離を探す前に、人一倍足を動かす。
そうやって受験の時も必死に努力してきた姿を、数年経った今でも思い出す。景衣の根幹は、ずっと昔から、そして今も、変わらない。
『――そんなことより、今からテスト受けるから、邪魔しないでね』
「…真っ直ぐで、いつも間違わないから。あいつは」
「……そうか?」
「は?」
くい、と再びペットボトルを仰ぐ男は、軽く呟いた。
サングラスを外して、胸のポケットにおざなりに引っかけながら片方の口端を意味深にあげる。
「あいつ、急に大胆で突拍子も無いことする時もあるだろ」
「……いつ?」
「本当に、“ここぞ“って時?というか、お前が関わってる時」
――忘れて無いだろ?
そうして真っ直ぐに伝えられた言葉を契機に、突然記憶が、穏やかな風になって頭の中でふわりと舞った。
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