不器用男の、ルール違反検挙(フェイク)

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◻︎ 「めんどくせー…」 あの時、確かに大人数の前で恥をかかせたのは申し訳ないが、喧嘩を売られたのはこっちだ。そして、俺も恥ずかしいところはなるべく見せられない存在を抱えてしまっている。 めでたくこの一件により更に大将にとって俺は「目障りな奴」認定を受けたらしい。 でもまさか自分が席を外している間に、そのまま練習に向かうために持参していたバレーシューズに目を付けてくるとは思わなかった。 「まさか」と思いながらあらゆる場所を探している中で、こうして手洗い場に無惨に放置された靴を発見してしまった。古典的ないじめ方過ぎて、もはやどういう感情を向ければ良いのかわからない。 「…これ、今日は使えねーなあ」 今から洗って干したところで、確実に練習には間に合わないだろう。 『一芭、大会のこと聞いた、すごいなあ。俺、会社でも自慢しちゃった』 『やめろよ恥ずかしいな』 うちの父親は、銀行員だ。職業柄、転勤がとにかく多い。昔は辞令が出ると、母さんも姉貴も一緒に着いて行っていたようだが、姉貴が転校を重ねて環境が変わるたびに、少しずつ心が不安定になっていたこともあり(なんならこの時代に珍しい、立派なヤンキー時代もあった)思い切って今のマンションを購入し、父親だけが単身赴任する形になって、もう数年が経つ。 この間の地区大会のことを母さんから聞いたのか、 新しいバレーシューズが贈られてきたのに合わせて、嬉しそうな声で電話までかかってきた。 ぐっしょりと濡れて可哀想な姿になった靴を見ていると電話越しの父親の笑顔を想像してしまい、罪悪感が一層募る。
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