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「俺こんなに、ガキらに好かれると思ってなかったな」
「…別に好きじゃ無いけど」
「ツンデレすんな」
靴を洗い終えて玄関先に向かうと、男は俺の頭を好き勝手にぐりぐりと撫で回す。睨みあげると、吹き出すように笑われてしまった。
「で、お前は結局、母ちゃん達にこの件は言わないつもりなの」
「言わない。こういうの親が出ると面倒になるだろ」
「……お前は本当、小学生らしくないな」
「は?」
「不器用だって言ってんの」
やれやれと溜息を漏らす男は、背中を壁に預けたまま少し困ったように眉を寄せる。
幸い、靴自体に傷はつけられていなかったので、洗えばなんとか綺麗になった。そのことに安堵しながら、
心に燻ったモヤつきも、ちゃんと洗い流した。
もうこれで、無かったことにする。
「明日、学校から帰ったら靴取りに来るから」
「はいはい」
「…カン、ありがと」
背を向けてドアを開けるのとお礼を告げたのは、おそらく同時だった。殆ど立ち去りながら伝えたから、開閉の音に紛れてしまったかもしれない。
でも今更言い直すのも変だと、そのまま走り去って外階段の方へと向かった。
カンが楽しそうに玄関先で笑って「さて、どうするか」と呟いた言葉は聞こえなかった。
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