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うちの学校には、毎週金曜日に「放課後クラブ」と呼ばれるものがある。運動ならキックベースやドッジボール、文化系だと習字やアンサンブル。自分がやりたいものを選択して、放課後の1時間半、活動を行う。
夢中になればあっという間で、俺が選択したキックベースなんて休み時間の延長のようなものだし、終わりの時間が早くも近づいていた時だった。
「…あれ。ドッジ、男女混合でやってんじゃん」
キックベースで同じチームになった友人の声に、視線を向ける。グラウンドを分け合う、隣のドッジボールチームのコートを見やると、その中にあいつの姿を直ぐに発見した。
『私、アンサンブルが良かったのに…』
人気の高いアンサンブルクラブにジャンケンで負けてドッジになってしまったと凹んでいたことを思い出す。
『俺キックベースだから、グラウンドの場所、隣じゃん』
『下手だから、絶っっ対こっち見ないでよね』
『見ねーよ』
そんないつも通りのやりとりを思い出して視線を少し逸らすと相手のコートの中にやけに目立つでかい男を発見し、体が固まる。
「…うわ、大将いるじゃん。あいつの投げるボール、やばそう」
「……、」
苦い声での友人の率直な感想に、不安が煽られる。あの身体の大きさと力の強さだ。投げるボールも確かに相当厄介そうな気がする。いやでも景衣は絶対下手だし、そんな積極的にボールを取ることも無いだろ。流石の大将も、女子を集中して狙うことはしないはず。
自分を納得させて、キックベースの見学の方に集中しようとした瞬間だった。
「――だっさいこと、してんじゃないわよ!!」
凛とした声を、俺は絶対に、聞き間違えたりしない。
やけにはっきりと聞こえたそれに再び振り返った時。
景衣が両腕を最大限に振りあげて――なぜか、不意をつかれた大将の顔めがけてボールを直撃させているところだった。
油断していたのか、呆気なく綺麗に尻もちをつく大将がスローモーションに目の前で再生されていた。デジャヴすぎる。
「……は?」
溢れた声は、ほぼ無意識だ。当の女は、そこから一歩も引かず険しさの残る横顔でじっと大将を見つめていた。
「え、待って、今どうなった。なんで大将こけてんの」
俺の声に気づいた友人も、戸惑いながら現状を口にしている。
『……もしかして、大将にやられたの?』
――あいつ、まさか。
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