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昨日俺と会話した時の景衣の表情を思い出したのと同時に、大将がゆらゆらと立ち上がる。
ボール直撃の衝撃と、恥ずかしさからか、顔を真っ赤にした大将の目が完全に三角になってつり上がる。直ぐ側に転がるボールを手にして何をしようとしているか分かった瞬間、考えるより先に体が動いていた。
「――――景衣!!」
勢いよく地面を蹴って、自分の持てる全ての力で走る途中、叫んだ名前に弾かれるようにこちらを向く女の表情には驚きが乗っていた。
馬鹿、驚きたいのはこっちだ。
自分の中の最高速度でコートに到着して、懸命にその腕を引き寄せた直後、自分の左肩あたりに揺れと、鈍い音を同時に感じた。足元でバウンドするボールを視界の端に捕らえながら「間に合った」と安堵した途端、痛みが襲う。
この男、どんだけ力有り余ってんだよ。そしてこのボールを、景衣に投げようとしていたのかと考えれば、やはり来て良かったと思ってしまう。
「、一芭、」
「おい、なんでお前が出てくんだよ!」
「………セーフなのに」
「はあ!?」
「ドッジは顔面当たってもセーフだし、そんな怒んなくても。あんなノーコンのへちょいボールで尻もちついて、正直ダサいけど」
俺の腕の中でじっとしている景衣が「へちょい」と言う言葉を聞いて、若干腕をつねってきている気がする。
「うるせえよ!!関係無い奴は、すっこんでろよ!」
「…いや。さっきのこいつは明らかに反則プレーだし俺も腕痛いから、ペナルティとして保健室に付き合わせる」
「はあ!?」
興奮した大将と俺の声のトーンの落差はすごいままだ。平然と告げ終えて、景衣の腕を取り、その場からとりあえず立ち去ることを優先する。
「おい、待て!!!」
大将がそんな簡単に諦めてくれるわけも無いか、と
溜息と共にどうしようかと逡巡していた時だった。
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