不器用男の、ルール違反検挙(フェイク)

11/11
前へ
/174ページ
次へ
「もっと素直に周りに甘えれば?若いうちの特権だろ」 「…そういう括られ方、好きじゃない」 「あー、"若者は"ってやつ?悪いな。年取るとどうしても出来ないこと増えるから、お前らに勝手に託したくなるんだよ」 告げ終えたやけに彫りの深さがわかるラインの綺麗な横顔は、いつもよりも優しさを帯びていた。俺が記憶を辿るのと同じように、目の前の男も何かを思い出しているらしい。楽しそうに笑って告げる管理人は、手に持つ炭酸水のキャップを閉めながら「さて」と切り出す。 「俺忙しいから管理人室戻るわ」 「ほんとかよ」 「不器用な住人だらけで、困るんだよ」 「……カン、」 からからと混じり気の無い笑い声で、そのまま管理人室へと向かう男の背中を見ていると、無意識のうちに名前を呼んでいた。 「久々にお前に、その変な呼び方されたな」 「……もっと、素直になって良いんだろ」 「…うん?」 「“あの時“。景衣がカンを真っ先に頼ったのは、あんまり面白くなかった」 この男が来てくれて、正直助かったのは事実だけど。 景衣が絶大な信頼を寄せているみたいで、俺1人じゃ結局あの事態を何も収束できなかったし、若干複雑だった。 言い逃げのようにそれだけ告げ終えて、漸くエントランスを抜ける俺の後ろでは案の定、男の快活な笑い声が静かな空間を壊すように響いていた。 「お前の素直になる方向性って、そういう方面なんだ?」 「うざ」 やっぱ、言うんじゃなかった。
/174ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1541人が本棚に入れています
本棚に追加