不器用男の、“ただの“独り言

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 不器用男の、“ただの“独り言

◻︎ 「今日はうちの卒業生であり、現役大学生である皆さんに来ていただきました。質疑応答の時間をメインに設けますので、高校時代のことや、受験期の過ごし方などこのチャンスを活かして色々と積極的に聞いてみましょう」 たった数年前、確かに3年という月日を過ごしてきた場所なのに、制服という鎧を脱いで足を踏み入れると、全く別の空間に迷い込んでしまったように感じる。母校に到着して、講演会の会場である体育館に入れば、今日出席する俺たち卒業生数名の椅子が壇上にまるでパネラー席のように鎮座していて、想像以上の仰々しさに苦笑いが溢れた。 ぞろぞろと集まった後輩たちからの注目を一心に受けながら、司会を務める教師が「貴重な機会ですからね」と念押しする。 最初の数十分間は、こちら側の自己紹介を交えたトークメインで進行し、その後は宣言のあった通り質疑応答へと移った。本腰を入れて受験勉強へシフトチェンジした時期、息抜きの仕方、受験期にやっておいた方が良いことなど。 まさに高校時代の振り返りを促されながら進む時間の中、とある男子生徒が真っ直ぐに手を挙げた。 「バレー部に所属している3年の山川(やまかわ)です!大学でもずっとバレーを続けられている花江先輩にお聞きしたいんですが、環境が変わっても揺るがない信念のようなものは、どうすれば得られるんでしょうか」 名指しされて不意をつかれたことに戸惑いつつ視線を投げると、マイク片手にあまりに透き通った瞳にぶつかった。
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