不器用男の、“ただの“独り言

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「……揺るがないものなんか、俺には無いです」 元々手渡されていたマイクを口へ近づけて、尋ねられた質問に少しの間を置いてから返事をした。 「高校の時も、俺1人では部活と勉強の両立なんかとてもじゃないけど、出来なかった。どんなに早い朝練でも弁当や練習着をちゃんと用意してくれる親とか、同じように悩んでる部活の仲間とか、クラスメイトとか。……後は、部活後にへとへとで帰ってきても容赦なく課題に付き合わせる奴が居たから、なんとかなったんだと思います」 大学に入って、一人暮らしが始まらなければ気づかなかったかもしれない。そして気づけたとしても、気恥ずかしくて簡単には、周りに言えない。近しい人間にならば、尚更だ。 『問題を解決する方法を、1人で抱えること一択にするな』 いつも勝手に俺のことを見透かしてくる面倒な管理人が、勝ち誇った顔をして笑っている気がした。 嗚呼、とっくにずっと、そうだった。 ――俺は、1人でここまで生きてきたわけじゃない。 「とてもありきたりで、本当かよって綺麗事のように思えてしまうしれませんが。これから受験が本格化して、より一層いろんなことで悩む局面になった時。 そういう時ほど、“誰か“を素直に頼ってください。 こんな風に戦って悩んで、苦しんでいるのは自分1人だけだと、どうしても思ってしまいがちですが絶対そんなことは無いです。周りはそんな簡単には、1人にしてくれない。同じように戦う人も、見守ってくれる人も、必ずいます。 ……俺も今、また就活を前にして格好悪いことに模索してばっかりです。揺るがないものなんか全然ない。――でもそれで良いかなと、思います」 『……お前の歳で、将来について綺麗な答え出してる方がびっくりするよ』 まるで自分自身に言い聞かせているかのような答えになった。あまりに明け透けに語りすぎたかと一抹の不安を抱いて質問をくれた後輩を見つめると、良い姿勢のままに「ありがとうございます!」と返事を受ける。それはそれで気まずい思いを抱え、複雑な笑顔を浮かべてしまった。
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