不器用男の、“ただの“独り言

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そこから、顔を合わせれば自然と話をする間柄だった。地方の大学へ進学した男も、今日の講演会に誘われて、俺と同じように帰省していた。バスケはサークルで続けているらしい。 「……一芭、バレー部の後輩からの質疑応答の時、格好良かったな」 「お前、嫌味?」 「ちっげーよ。俺も、お前はバレーも勉強もなんとなくずっと涼しい顔で器用にこなしてるんだと思ってたから。なんか、嬉しかったわ。お前も、全然ちっぽけなんだよなあ」 駅へと向かう途中、哲がそう伝えながら俺に笑う。そして「そうだ」と明るく言葉を繋ぐ奴に目線を向けた。 「……お前が高校時代を乗り越えられたのは、やっぱ新渡戸が大きいんだろ?言ってたじゃん、課題付き合わせてくる奴って」 「……」 「お前ら、高校でもぜ〜んぜんひっつきそうに無かったから、幼馴染としてはどうしようかと思ってたけど。卒業間際にやっとくっついて、今もちゃんと続いてんだな」 「…まあ」 「おい照れんな!」と隣から思い切り肩を殴って豪快に笑う哲を睨む。こいつ、やっぱり力加減が分からないところは昔から変わらないらしい。痛い。 「…就活のことで周りも段々ソワソワしてるし俺も結構、憂鬱だったからさ。お前の言葉ありがたかったよ。お礼に一個教えとく」 「…何」 「昔、新渡戸にドッジで顔面にボール当てられたことあったじゃん」 「……あったな」 「あの後、俺謝られたんだよ」 『あんたのことムカついて、懲らしめたいって、ついやったけど。あんなルール違反じゃなくて正々堂々とドッジでちゃんと勝負すれば良かった。ごめん』 「…俺、あの頃絶対、新渡戸のこと好きだったんだよな、間違いなく。だってなんか、カッケーんだもん。どんなに小さい子供でも、人の気持ちが向いてる方ってなんとなく察するんだよな。新渡戸、面白いくらいお前しか見てなくてさあ、それが分かるからこそちょっかいかけるという、典型的な奴だったな俺は」 「…"イナゾー"な」 ずっと表情に優しい笑顔を乗せて記憶をたぐり寄せる男は、照れもあるのか、「おい恥ずかしいだろ!!」と、また俺の背中をバシバシと叩く。まじで、痛い。 「あんなノーコンボールしか投げられないくせにお前と勝負するとか、あいつは何を言ってんのかな」 「まあ確かに。でも格好良かった。俺が怒って投げたボール、庇ったお前に当たったから余計後悔してたんだろな」 いつもいつも、あの女は、誰よりも馬鹿みたいに真面目で融通が利かないのがデフォルトだ。でも時々、後先考えず大胆不敵になって突っ走る。 ――そして反省する結果になった時は、やっぱり逃げたりしない。 「…哲、俺お前から初めて有意義な話聞いた」 「初めて!?俺らまあまあ3年間語り合ってきたと思うけど!?」 「ずっとバレーシューズの件で、相殺されてた」 「…もうほんと、あの頃の俺のこと殴ってきて良い?」 「嘘だよ」と思わず笑えば、哲も眉を下げながら笑いながら「あー彼女ほし」と切実な願望を呟いた。
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