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「拓海の子どもの頃の話を聞かせろよ」
大学生の一人暮らし、1LDKのマンションはこの部屋の主・武岡翼の実家の裕福さを物語る。
寝室にはダブルベッド、高校までラグビーをしていた翼は筋肉質で体格がいい。シングルでは狭いという理由でダブルベッドを買ってもらったという。
ご両親も愛息がこのベッドで男と寝ているなんて思うまい。しかもうつぶせから男を見上げる上気した顔。ご両親に顔向けできない。
ガタイはいいが、かわいい顔つきをしている翼のこの姿にそそられて、俺は翼に溺れてしまう。よく見れば背中も尻も足だって、筋肉質で男らしさを主張しているのに。
「面白いことなんてないよ」
「あの教育学部の健人と法学部の葵と昔からつるんでるんだろ」
「小学生の頃からの腐れ縁の親友。深夜徘徊したり、かと思えば葵のストーカー退治したり、受験勉強したり…。そんなに楽しい話もないよ」
翼の目が光る。最近、幼馴染みの健人と葵の話が出る時、翼の目がきつくなる。三人で雑魚寝しても何も起きない確信があるけれど、翼には通用しない。
健人は日焼けした爽やかな好青年、葵は中性的な美人、二人といると嫌でも目立つ。そして、男二人に女一人、いろいろな噂が立つ。
健人は自覚してから15年という恐ろしいくらい長い片思いをしている。
葵は幼い頃から美少女で変質者に追いかけられるうちに女の子っぽさを捨ててしまい、それ以来自分が何者かわからなくなっている。女の子が好きなんじゃないかと思っていたらしいけれど、多分、女の子らしさへの憧れだったんだろう、今は8歳年上の男性と付き合っている。
そんな時間を共有して、恋愛という世界ではとらえきれない関係だけど、理解してもらえない。
翼は二人だけの世界に俺を連れて行こうとする。
「初めての相手は誰?」
今日の翼はしつこい。
「中学の時に通ってた塾の先生。個別レッスンをしていたら、違うレッスンになっていた」
「…好きだった?」
「嫌いではなかった。でも、あの塾やばいよな。俺、他の先生ともとやっちゃった」
「は?」
「男も女もその塾で教えてもらった。笑えないな」
ひきつる翼にキスする。
「だからさ、俺の子どもの頃の話なんてロクなことがない。あの二人はこのことは知らない。二人にばれないところでいろんな相手がいたってこと」
「今は?」
「翼だけだよ」
背骨に沿って手を這わせる。誘うように、焦らすように。翼の意識を欲望に向けさせるように。
翼の吐息に俺はまた、溺れる。
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