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なかなか誤魔化せなくなってきたのは夏を過ぎたあたりからか。小4の時のタイムカプセルを掘り起こすために皆で集まり、ミニ同窓会になった。
俺には楽しい時間だったけれど、翼には面白くなかったらしい。
翼と知り合う前の同級生たちと再会して楽しい時間を過ごしたことに翼が嫉妬する。嫉妬するほどのものは何もないのに。
バイトの終わりに迎えに来たり、友達との飲み会にやたらとメッセージが着たり、週末を一緒に過ごそうと躍起になったり。
翼はプラトニックはあっても誰かと付き合ったことはなかった。つまり、俺が初めてのオトコ。
執着するのも仕方ないか。
そんなある日、電話がきた。実家から祖母ちゃんが転んで入院したという。
「ダイタイコツテンシブコッセツしたのよ」
母がメモを抑揚なく読み上げる。
「天使? 天使部骨折?」
「あー、要は足の付け根を骨折して、明日手術なの。2週間くらいしたらリハビリ病院に転院するのだけど、急に病院に入院するとボケるらしいのよ。だから、おばあちゃんがボケないように皆で面会するようにしたいの。あんたも世話になったんだから、ちゃんと行ってくれるわね」
「わかった。夕食頃に行くようにするよ」
ちゃんと漢字にすると『大腿骨転子部骨折』なんだそうだ。足の付け根に天使はいないらしい。
バイトのない日に行ってみると祖母ちゃんは弱気になっていた。
「もうリハビリが痛くて痛くて。お祖母ちゃん、歩けなくなっちゃったよ」
ボケたとは思えないけれど、気弱になった祖母ちゃんに驚いて、週に何回かは来てあげたいと思った。
病院から出て、スマホの電源を入れると同時くらいに翼から電話がきた。
「拓海、電話切ってただろ。どこにいるんだよ、何してんだよ」
「祖母ちゃんのお見舞い。言ったろ、入院しているって。なんか気弱になっててさ、面会時間ぎりぎりまでいたんだ」
「…祖母ちゃんじゃなくて、誰かとホテルにいるんじゃないの?」
「…なんで?」
「浮気してるんだろ! だから最近・・・」
「悪ぃ、バスが来たから切るわ」
また、電源を落とし、バスに乗る。ため息が出た。
最近の翼の束縛がつらい。夜の快楽を共にしていて、その意味では翼は最高なのだけど。
でも、生活や人生を共にするパートナーは別だろ。少なくとも、二人で人生を共有するなんて未来は翼だって描いていない。翼は裕福な家に戻るべき人間で、その時にオトコは必要ないはずだ。
だから、この大学生という一時を共有する者として、俺は線を引いている。卒業とともにバイバイされた時の痛みを和らげるために。
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