31人が本棚に入れています
本棚に追加
3
軽く電話恐怖症になりそうな初秋の夜、全く意に介さぬ電話がかかってきた。
「同窓会? 成人式の後で?」
『そう。この間楽しかったじゃん。だからやろうよ、実行委員』
能天気なこの声、健人だ。
「実行委員ね、また真由ちゃんを誘うんだ」
『当然だろ。真由がいなくちゃ始まらない』
「真由ちゃんと仲良くなりたいならば別の方法もあるだろ」
俺は今、翼だけでお腹いっぱいだ。
『俺の一番は当然真由だけど、葵のこともあるんだ。同窓会するならば、葵も成人式に来れるだろ』
「…そっか」
葵は両親が離婚し、母親と暮らすために引っ越した。その母親も再婚して、また転居。家に居辛くて夜間徘徊なんてしていた時期もある。
再婚相手との家では3年暮らしただけで、そこの成人式に出ることはないだろうと俺も思う。
真っ直ぐな健人はたった一度の成人式を葵にも楽しませたいと思っている。葵はきっと迷惑がりながらも喜ぶと思う。葵の恋人も。
『葵っていえばさ、最近またきれいになって、葵を紹介しろってやたら言われるんだけど、大輔さんとうまくいっているのかな?』
「そうみたいだよ」
『へー、大輔さん、ますます俺たちの兄貴に思えてきた。葵、偉いな』
「そうだね」
『笑うな、拓海!』
健人も同じだ。というか、葵を兄弟みたいに捉えているから、大輔さんを兄貴と言ってしまうんだろう。その無邪気さに笑ってしまう。
「じゃあさ、とりあえず三人で大輔さんの店に行こうよ」
『行きたい! 天丼食いたい、最高だよな』
「蕎麦も食えよ。葵が大絶賛してる」
『じゃあ、セットで食べる。いつにする?』
「あ、ごめん、祖母ちゃんが入院していてさ、来週末行くことにしてるんだ」
『今週は俺が学校に行くことになっていて、その次の次は葵が温泉に行くって言っていた』
「温泉?」
葵と温泉? まったく結びつかない。
『うん。あれ? 誰と行くんだ? え…、大輔さん?』
「へー、葵が」
葵は家族旅行もしたことがなかったはずだ。そっか。それは葵に会わなくちゃ。
「来週末、祖母ちゃんとこに行く前ならいいよ。大輔さんとこはランチだけだし、ちょうどいいだろ」
『了解』
健人もわかったようだ。あれだけ美人で頭もいい葵だけど、旅行の時にどうしたらいいかはわかっていないかもしれない。入れ知恵しなくちゃ。
俺はその来週末が何の日なのか、すっかり忘れていた。
最初のコメントを投稿しよう!