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「すいません、橋本文香のコンサート会場はどちらですか」
持っていたチケットを渡し、黒いパンツスーツを着こなした受付の女性に声をかける。結い上げられた髪は艶やかで、その肌は陶器のように美しい。付けたインカムが出来る女性、という雰囲気に磨きをかけている。受付の女性でこれほどでは、橋本文香本人はどれほど美しく着飾っているのだろうか、と、そんなことを梶良平は思った。
「お越し頂きありがとうございます。当館小ホールが会場となっております」
手渡されたパンフレットには、橋本文香の後ろ姿が映し出されている。大きく背中の開いた紺色のドレスに、露出が過ぎると思ってしまうのは、惚れた弱みだろうか。棘の刺さったような痛みを覚えながら、受付の女性に礼を言い、そのまま目についたトイレへと向かう。
断じて、用を足すのではない。鞄から真新しいネクタイを取り出す。急ぎで買った、紺色のニットタイ。こういった場に来ることがなかった梶は、ネットで調べ店員に相談をし、ようやくこの1つを手に入れたのだった。
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