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鏡の前に立ち、しているネクタイをはずし押し込むように鞄へしまって、買ったばかりのネクタイをつけた。ネクタイをつけなくてもいいらしいことは、ネットにも書いてあったのだけれど、今日はどうしてもネクタイをつけたい理由があった。
仕事帰りのスーツは、1日の終わりのためかくたびれている。軽く手で払い皺をのばすようにするも、気休めにしかならない。けれど、着替える時間はなかったのだから、もう仕方がないと諦めた。
今一度鏡に映る自分を見つめ、梶はおかしいところがないかどうか確認をする。ふと視線を足元に落として、革靴も汚れがないかチェックした。大丈夫なのを確認して、鞄を手に持ちトイレを後にする。
パンフレットを開くと、橋本文香のドレスと同じ色が一面に広がり、そこに浮かび上がるように淡い文字で演目が書かれていた。全部で6曲。並ぶ曲名は知らぬものばかりで、まったく想像がつかない。けれど昔聞いていたあの音色を聴けるのだと思ったら、もうそれで十分だと梶は思った。
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