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クロークにて荷物を預け小ホールの前まで来ると、入り口に立つ男性スタッフがいた。こちらもまた、黒髪を綺麗に整えスタイルのいい身体を際立たせるように、黒いスーツを着こなしている。橋本文香の周囲にはこんな男ばかりがいるのかと思うと、梶は気落ちする。覚悟を決めてきたのに、それすら揺らいでしまいそうだった。
でも、今日こそ伝えないといけない。手の届かないところへ行ってしまう前に、せめて自分の気持ちだけは。そう梶は思い直した。
小ホールに近づくと、男性スタッフは梶が手にもつパンフレットを目にし、その入り口を開けてくれた。「ごゆっくり」と短く告げられた言葉に会釈を返し、ホール内へと入る。
突き抜けるように広いその会場に驚いた。音を遠くまで届けるために作られた天井は後方に向かうにつれて裾が広がっていて、多くの照明器具がひっそりと佇んでいる。ステージ上には、艶やかにその魅力を放つグランドピアノ。偉観ですらあった。
座席はほぼ埋まっている。日曜日だというのに梶のように仕事帰りと思わしきひとが多くみられたが、橋本文香本人のように着飾ったひともちらほらうかがえる。
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