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 橋本文香の演奏を待ち望み、特別な時間を過ごそうというひとたちが大勢いることに、梶はただすごい、と思った。  多くのひとの時間を預かり、最高のものとして返す。ひとそれぞれの感情を揺さぶり、沢山の感動をもたらすことを、今目の前でやろうとしている橋本文香。かつて同じ時を過ごした相手とは、到底思えなかった。  指定された座席は、ホールの最前列の中央だった。既に席に着いている観客の前を「すいません」とひとこと言いながら低姿勢で通り抜け、すみやかに座席につく。ステージ上が一望できるわけではない。けれどこの席は、橋本文香を見るにはとても良い席と言えた。  待つこと数分。ホール内の照明が落とされ、ステージ袖に立つ女性にスポットライトが当てられた。シンプルな膝下丈の黒のドレスを身に纏った女性は頭を下げる。  「本日は橋本文香ミニコンサートにお越し下さり、誠にありがとうございます。公演を始める前のご挨拶並びに留意事項を簡単にご説明させていただきます」
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