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「そんなの、わかるに決まってる。あれは、俺の……」  ショッピングモールの店先にあった商品を思い浮かべ、また涙が零れる。 「なんで、あんな……」  清正は辛抱強く待っていた。光が泣き止み、涙が落ちなくなるのを確かめてから、静かに口を開いた。 「誰が、いつ、盗んだのかわかるのか?」  光は頷いた。  物理的な状況を考えるほうが、品物を思い浮かべるより辛くなかった。 「うちに来た時、見たんだと思う」 「誰が?」 「淳子」  短く答えると、清正がビクッと身体を離した。 「淳子? ちょっと待て。淳子って誰だよ。家に来たって、どういうことだ?」 「チーフだよ。俺の元上司」  松井淳子。突き出した唇でフルネームを教えた。 「元上司? 淳子っていうからには、女だよな?」 「そうだよ」  去年の春まで、光はラ・ヴィアン・ローズを展開する『薔薇企画(ばらきかく)』の社員だった。松井は、デザイン部門を取り仕切るチーフデザイナーで、直属の上司だったのだ。 「いくつ?」 「知らない。あ、でも確か七つ上って言ってた気がする。三十四歳とか、そのくらい?」 「なんで呼び捨てなんだ」 「さん付けするのが嫌だからだよ」  清正が低く唸る。 「家に来たって……、部屋に入れたのか。……つまり、そういう相手なのか?」  仕事で来たのだが、まあそうだと思って頷いた。独立したばかりの光は事務所を持っていないので、自宅が仕事場を兼ねている。  清正が質問を続ける。美人なのかと、どうでもいいことを聞くので、面倒くさくなって薔薇企画のホームページをスマホに表示した。  チーフデザイナー「JUNKO」の文字と、自信たっぷりの笑顔で写った華やかな顔写真が画面に現れる。  ちなみに、デザイナー名を「JUNKO」と名乗っているので、社内でも下の名前で呼ぶように、松井本人がまわりに指示していた。 「なんだよ、これ。女優かタレントのプロフ写真みたいだな」 「宣伝用だからね」  元ミスなんとからしいし、素材は悪くないのだろう。専門のヘアメイクとカメラマンを使っているので、ふだんの数倍増しで写りがいい。  ついでに経歴のほうも、ものは言いようだと感心するくらい巧みに盛ってある。  黙って画面をスクロールしていた清正の手が止まる。 「この男は?」 「ん? どれ?」  端整な面差しに自信に満ちた表情を浮かべた男が写っていた。 「社長」 「社長?」 「うん。下に書いてあるだろ」  薔薇企画代表取締役社長、堂上由多加(どうがみゆたか)。漢字ばかりが並ぶ鬱陶しさを払拭するため、フォントの色や太さまで考えられた文字が綺麗に並んでいる。 「……こいつはどういう男だ?」 「どういうって……、社長は社長だけど?」
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