【3】

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「大悟、いるかい?」  村山が舌打ちする。 「……ったく、どいつもこいつも。カレンダーってもんを知らねえのかよ」 「あ。やっぱり、いるじゃないか……。おや? なんで、光がここに?」  仕立てのいいスーツに身を包んだ男が、優雅な仕草で作業場を横切ってくる。甘くスパイシーな香りがかすかに漂った。 「社長……」 「なんで、おまえまで来るんだよ」  大口取引先の社長である堂上に、村山はひどくぞんざいな物言いをした。  四十代の堂上は、年齢的にも村山より上だ。しかし、堂上のほうでも気に留める様子はなく、にこにこ笑っている。  どうやら二人は個人的にも親しい間柄なようだ。  作業台の上に並ぶ照明器具を見て、堂上が聞いた。 「それは?」 「勝手に入ってくるなよ。他社の人間に試作品見られたらヤバいことくらい知ってるだろ」 「だけど、それ、うちの、新商品でしょ? ……いや、少し違う?」 「だから、見るなって言ってるだろ」  村山が急いで試作品を箱にしまう。 「どういうこと? どうして、ここにそれがある?」 「別にいいだろ」 「よくはないよ。状況だけで判断すれば、それはうちの商品のコピーだよ」 「はあ? てめえ、ふざけてんのか?」  気の短い村山が威嚇するように前に出る。長身の二人が険しい表情で睨み合った。 「コピーなんかじゃない」  光の言葉に、堂上が振り向いた。 「事情がわかっているなら、教えてくれる?」 「あいつが……、淳子がデザイン盗んだ」 「盗んだ?」  堂上と村山が同時に目を見開いた。光は一言言った切り、唇をぎゅっと結んで横を向いた。  証拠は何もない。信じるか信じないかは勝手だ。しかし、どちらも「本当なのか」とは聞かなかった。  光とのつきあいはどちらも六年目になる。  頑固で扱いにくく、時によくわからない言動でまわりを振り回すことはあっても、光が嘘や冗談でもそんなことを言わないと知っているのだ。  一度スマホを手にした堂上が、やや迷った後でそれをポケットに戻した。 「証拠は、ないんだね……」  光は頷いた。 「だったら、今、松井くんに聞いても無駄だろうね……」  仕事部屋にあったのはスケッチだけだ。  日付はえんぴつ書きでいくらでも直せる。デジタル化した日付や、試作品を発注した時期が証拠になるかもしれないが、すでに店頭に並んでいるのなら、松井のほうが先に動いている可能性も高かった。  光の言葉だけで、盗んだことを第三者に証明するのは難しいだろう。 「気付いたのは、いつ?」 「昨日」  郊外の店舗に並んでいるのを見たと告げる。 「昨日……。盗まれたのがいつかは、わかるの?」 「半年くらい前、うちにあいつが来たことがある。仕事の依頼で寄ったんだけど、そんなこと自体珍しいし、なんとなく様子が変だったから覚えてる」
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