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 翌朝は約束通り、朝一番で薔薇企画の本社に向かった。  三階の企画部に上がっていくと、会議用のテーブルに夏展開の試作品がいくつか並んでいた。比較的リーズナブルな価格帯のグラス類に目を留め、光はうんざりした気分と顔をしかめた。 「縁の近くのこのライン、いらない」  ぼそりと呟くと、ちょうど部屋から出てきた堂上が光の見ているグラスに目を向けた。 「でも、ラインなしだと定番商品と変わらないしねぇ」 「入れるなら、あと二ミリ上。ラインの幅も半端すぎ。細くするか色を変えて太くする。そうじゃないと重い」  グラスを持ち上げた堂上がしばし考える。  光は隣のグラスを目で示した。 「こっちはドットの入れ方が雑すぎ。なんで、この位置に等間隔で入れるの? サイズか位置を変えないと重いよ。夏の商品なのに……」  うまく説明できない苛立ちから、スケッチブックを開いてサラサラと二つのグラスのデザインを描いた。  それを見て堂上がううんと唸った。 「なるほど……。確かに、思った以上に違うね」  もう少し力のあるデザイナーを探したほうがいいかなと呟く目は厳しい。 「こういうものは誰が作ってもそれなりの商品にはなるから、わかりにくいね。でも、どこという難がないのに売れないのは、こういうことなんだね……」  そばにいた新人デザイナーに、「松井くんを呼んでくれる?」と言った。  一瞬、きょとんとした彼女が「あ、淳子さんですね」と言って、奥にあるチーフ用のブースを振り向いた。  小走りに向かったスタッフを押しのけてブースから出てきた松井は、光の姿を目にすると硬い表情になった。  少しの躊躇の後、覚悟を決めたようにつかつかと歩いてくる。  特徴のある甘い香水の香りが漂った。光を無視して、松井はまっすぐ堂上に向き合った。 「何か御用でしょうか」 「どうして光に頼まないんだい?」 「お忙しそうでしたので」  ぬけぬけとそんな言葉を吐いた。 「雑誌に取り上げらましたし、依頼が殺到している頃でしょうから」  堂上の指示で取材を受けたのは女性誌の特集記事で、作品よりもデザイナーの顔を大きく載せるような記事だった。発売されたのは昨年末だ。半年前からの発注停止とは関係ない。 「このグラス、デザインを差し替えて。光、そのスケッチをもらえるかい?」 「金を払うなら」  即座に口にすると、松井の目が光に向けられた。 「依頼したわけでもないのに、デザインの押し売りをする気?」 「使うなら、金払えよ。当たり前のことだろ」 「バカ言わないで。ここまでアイディアを詰めてきたのはうちのデザイナーよ。少し手を加えただけで……」 「そいつがやったこと、全部、無駄だもん」
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