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定番商品と変わらない形状に、毒にも薬にもならない柄を入れただけ。何を目的に商品を作ったのかすらわからない。
作り手に、デザインの意味を理解する気がないからだ。
「時間をかけて、何度も打ち合わせをしてこのデザインに決めたの。少し細かいところを変えただけで、どうしてそれを……」
「どう努力して、どれだけ時間をかけたかってことに、意味があるのかよ」
松井の頬が引きつる。
堂上は可笑しそうに笑って眺めているだけだ。
「努力に意味がないですって? あなた、いつもそう。ものごとにはやり方ってものがあるの。努力とか道のりが大事だってことは、子どもだって知ってるでしょ。大体、人のやったことに意味がないだなんて、どうして言えるの? 言われた人の気持ちを考えたことはないの?」
「気持ちって何だよ。頑張ったから買ってくださいって言うつもりかよ。ダメなものはダメだろ。いいか悪いか、欲しいかいらないか。それだけだろ。バカかよ」
あたりはしんと静まり返った。
「聞きました? この子って、いつもこう。横からさらっとスケッチ描いて、人の努力を無にしてもなんとも思わない。クビにしていただいてせいせいしたわ」
堂上の眉が上がる。顔は笑ったままだ。
「光をクビにしたつもりはないよ。バックアップして新しい事務所を持たせただけだ」
「自宅で一人、好きな時に働くいい加減な事務所をですか?」
皮肉と憎しみを込めた目で松井が見下ろす。
「仕事はちゃんとやってる。どういうやり方してたってあんたに関係ないだろ」
そうそう、と堂上が頷く。
「光にはあのくらいでいいんだよ。この子が会議に出たところで、何の役にも立たない。それより、あれだけの質とスピードなら、個人でやったほうが収入になる。光は勤め人よりフリー向きだと思ったから、独立させただけだよ」
それと、と真顔になって続けた。
「グラスは光のデザインでいく。光には既定のデザイン料を払っておいて」
「でも……」
「あれでは使えない。内部、外注を問わず、デザイナーの指導をもっと徹底して」
まだ納得せず、「このデザインでも十分……」と言い返す松井に、どちらを選ぶべきか判断できないわけではないだろうと、堂上は聞いた。
「うちのような企業は、デザインの良し悪しが命だよ。その判断もできないようなら、きみの処遇も考えないとね」
堂上の言葉に、松井の顔がさっと青ざめた。
ほら、と光は心の中で思った。
イエローカードの一枚目だ。表向きは紳士で一見穏やかそうに見えても、この男の目は厳しいし残酷なのだ。
使えないと判断されれば即座に切られる。
「今のうちに目いっぱい光を使っておくといい。そのうちこの子のデザイン料は倍以上に跳ね上がるかもしれないからね」
「冗談はやめてください」
「冗談を言っているつもりはないよ」
「また雑誌の取材でも受けさせるつもりですか」
引きつった笑顔で口にする松井に、堂上は声を出して笑ってみせた。だが、その視線はどこか冷やかだった。
「取材が殺到するようなら嬉しいけどね。きみか光がコンペに通ってくれれば、僕も鼻が高い」
「まさか、此花も参加させるんですか?」
「なんだよ。コンペって」
堂上は、その話をするために光を呼んだのだと言った。
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